EP of Vana'diel

『第一級戒厳令発動!!
 死者の軍団行軍中!防衛ライン突破!アルザビ到達までの予想時間20分!
 五蛇将及び皇国軍正規兵、他戦闘可能な傭兵達は迅速に配置につけ!
 非戦闘員はアトルガン白門へ直ちに退去せよ!繰り返す!防衛戦準備をせよ!』

 

 皇都アルザビの朝は早い。正確には朝でも夜でもおかまいなしに蛮族軍が襲ってくるのだが。

ここはアトルガン皇国の首都アルザビ。
近隣の獣人諸国からマムージャ蕃国軍、トロール傭兵団、死者の軍団と呼ばれる獣人達が軍隊を率いてこの国の「魔笛」を奪いに襲ってくるのだ。

 

しかしけたたましい号令とは反対に、その場に集まった傭兵*1達に緊張感は微塵も感じられなかった。
それもそのはず、何しろ本来なら蛮族が市街地に到着する前の行軍中に撃退できてしまう程の腕前を持った冒険者達が何百人も集まっているのに、わざとここ首都アルザビでの防衛戦を起こさせているのだ。

 

 一体何の目的でそんな事を?
1つは傭兵として働いた事をこの国の役人に認めさせ報酬*2を得る事。
もう1つは少人数では蛮族に挑んでも返り討ちに遭ってしまうような未熟な冒険者でも、この市街戦でなら歴戦の冒険者や皇国軍の五蛇将の陰に隠れながら自分の腕を磨けるからだ。


はっきり言ってこの市街戦に危険な要素などほとんど無いと言っていい。むしろ蛮族軍が憐れに思えてくるほどだった。

「行くよナデシコ、アクティベート!」

私はいつものように相棒のオートマトン「Nadeshiko」を起動させ、死者の軍団*3を待ち構えた。


 何を隠そう私もこのヴァナ・ディール*4では少しは名の知られた冒険者
バストゥーク共和国から出立し、サンドリア王国、ウィンダス連邦、そしてジュノ大公国で数多の名声を馳せて来たMizuhoと言えば多少の知名度はあると自負している。

 

 駆け出し冒険者の頃は「モンク」として拳1つで敵を倒して身を守りながら旅を始め、「戦士」「シーフ」「白、黒、赤魔道士」と冒険者としての基本職を転々とし、「ナイト」「暗黒騎士」「狩人」「吟遊詩人」「獣使い」数々の上級職に就く事も認められるようになり、ある時は小さな飛竜に愛される「竜騎士」として、またある時は光の召喚獣カーバンクルに認められた「召喚士」として、「ひんがしの国」から伝来された職業「忍者」として戦う事もあれば、ここアトルガン地方では不滅隊のNareemaさんの不思議な魅力に取り付かれて同じ「青魔道士」の使徒になり、ひょんなことからアトルガン皇国に反旗を翻す海猫党にも認められ海賊「コルセア」としても活躍し、Shamarhaan師匠と、兄弟子(って呼びたくないけど)のIruki-Warakiには「からくり士」として太鼓判を押され、他にも見習いだけど「学者」として学んだ事もあればブリリオート舞踏団の「踊り子」としても認められているこの私がいれば、たかが蛮族軍の一つや二つ、朝飯前に撃退して今日もナリーマさんにお弁当を届けに……

 

『みずほ~ん、今何してるの~?』
耳に着けたリンクパール*5から友人の声が聞こえる。
「今ね~、アルザビでビシージ*6してたよ~」
『おつかれ~。戦績貯まった?』
「うん、結構貢献したと思う~。今レイズ待ちしてる~」

 

 大量のスケルトンに囲まれてる最中敵のラミアの魅了攻撃を受けた私は、自分の意志と関係なく体の自由を奪われ、意識が戻った時には声を出すのがやっとの状態で地べたに倒れていた。周りの歓声が上がった様子からすると蛮族軍は撃退できたらしい。
辛うじてリンクパールで会話をしていた私にどこからか暖かい魔法の光が降り注いだ。運が良かった、蘇生魔法「レイズ」だ。

 

 体の感覚も戻ったので起き上がって礼を言おうと、目の前にいるであろう白魔道士の姿を探すと今の今までリンクパールで会話をしていた友人その人だった。


「来てくれたんだ!ありがとう~!」

「ついでがあったから寄っただけだよ~」


 彼女は私の所属するリンクシェル*7のリーダー。

私と同じヒューム族だけど私より少し年上で、私と違って本物の高レベル白魔道士

要するに、はっきり言うと、
「歴戦の冒険者や皇国軍の五蛇将の陰に隠れながら自分の腕を磨く未熟な冒険者」とは、つまり私の事だ。
いやさっき語った私の冒険譚も嘘ではない。いろんなジョブを転々としたけどそれほど高レベルではないだけ。
「侍」になるクエストは一人じゃ無理そうだったから諦めたし。
「モンク」と「からくり士」はそれなりに自信あるんだけどね?うん、まあ、それなりに。……そこそこ?
バルクルム砂丘の巨大蜻蛉Valkurm Emperorを一人で倒したこともあるし!ほら!姫帝羽虫の髪飾り!

 

「みずほん誰に言い訳してるの?」
「いや、なんだろう……自分に?」

 

 市街戦の終わったアルザビはまたいつものように賑わっていた。
先ほどの戦闘の功績を称えあう轟きが響きあい、五蛇将を讃える雄叫びもあちこちから聞こえてくる。
そんな中近くの冒険者達からは私のような未熟な冒険者を邪魔に感じる声もちらほら聞こえてくる。
この群集の中で多少そんな声が聞こえてきた所で今更気にするような繊細な性格ではないのであまり気にはしてないが、自覚はしてるので少し恥ずかしい。

 

 この世界、ヴァナ・ディールで冒険者として歩み出してから何年経っただろう。
もういちいち覚えていやしないが、その昔一緒にコンシュタット高地でゴブリンと戦った友人、バルクルム砂丘で巨大魚や為、じゃなくて蟹を狩って修行を重ねた同志達、クフィムでスケルトンやギガース達を相手に戦った仲間達、には同じリンクシェルに誘ってもらった。

それから紆余曲折あって違うリンクシェルに移ったりもしたけれど、当時の仲間とはこうして今も付き合いがある。

しかしどの友人も間違いなく私よりずっと強く、ずっと遠く、手の届かない先に進んでしまっている。


 いったいどうしてそんなに差が開いてしまったのだろう。いや理由はわかっている。
私には向上心がない。競争心もない。一人でのんびりしているのが好きなのだ。
飛竜の卵を孵して生まれた仔竜に認められ「竜騎士」になれた時も、強くなる事よりその仔竜*8と遊ぶ事を優先していたし、七つの天候を巡ってカーバンクルの紅玉から霊獣カーバンクルを召喚し、見事「召喚士」として認められた後も、それ以上の強い召喚獣と契約する事よりカーバンクルを連れまわして遊んでいた。

ここアトルガン地方において入手した旧型のオートマトンオートマトン工房のGhatsad親方に修理してもらい、「からくり士」になってようやく真面目に相棒ナデシコと共に強くなろうと思い始めたぐらいなのだ。
超ウルトラスーパースロースターターなのだ。大器晩成型なのだ私は。

 

 見ず知らずの他人に何を言われようが気にするような事ではない、我が道を行けばいいだけの事。
幸い私のリンクシェルの仲間達は私がどんなにゆるやかな冒険者生活を送っていようが何も口を挟む事は無く、逆に何か自分の力だけではできない事を口にすると積極的に助けてくれるような頼りになる人達なのだ。
何を気に病むことがあるだろうか。

レイズで回復をしてくれたついでにジュノ大公国まで転送魔法テレポをしてくれた友人は、同じくリンクシェルの仲間であり彼女の配偶者である高レベル戦士のヒュームの鍛冶職人と共に高レベル冒険者用のバトルフィールドへと向かっていった。

 

 私は彼女達についていけるようなレベルではないので、バタリア丘陵の虎を狩りに、いやアルテパ砂漠に行くべきか……


一人でブツブツ悩んでいると少し離れた所からひそひそと声が聞こえた。
「あれって、みずほ?」
「あの装備ってことは、まだあのレベル?」
「まだやってんのかよ」


 長年冒険者として各国を渡り歩いてきた知名度は、自負している。
とは言えそれも名声だけに留まらず、あまり聞きたくないような噂話をされる程度には知名度があるらしい。
見ず知らずの他人に何を言われようが気にする事ではない。
そう思ってはいても、それも塵も積もればなんとやら、次第にやる気がなくなってくるのだ。

背後で嘲笑していた冒険者達にヘラヘラと笑顔を交わしてモグハウスに入ると、ベッドに寝転んだ。
こんな時、以前酒場で一人で愚痴を溢していた時に何気なく投げかけられた言葉が胸に刺さった事を思い出す。

「やめればいいじゃん」

辞める……何を?冒険者を?なんで?噂話されたくなかったら辞めろって?どうして?
関係ない他人に口出ししてくる人の為に何で私が自分の生き方を変えなきゃいけないの?


言いたい言葉が溢れてくるのにそれをぶつける勇気がなかった。

何よりその言葉は、私自身が私に向けて何度も繰り返しぶつけて自分を責めてきた言葉だったから。


「……辞めちゃおっかな~」

何度呟いたかわからないその言葉を吐き出して、そのまま不貞寝をした。

 

次に目が覚めた時、私は違う世界にいた。

 

 

 

アリアンロッドRPG 2E「穿て 異界の門」外伝

異世界人ヴィヴィアンの旅路

序章1──エピソード オブ ヴァナ・ディール──

 

 

 つづく▼

crimsondarkness.hatenablog.jp

 

*1:冒険者

*2:皇国軍戦績

*3:ラミアやスケルトン達の群れ

*4:ヴァナ・ディール/FF11用語辞典

*5:リンクシェル(遠くの人同士が会話できる魔法の貝殻)から生み出された真珠

*6:市街戦

*7:「ギルド」等と同義

*8:Delphyneと名づけた。後にLucyと改名。