EP of Eorzea
▲のつづき▼
『……て……』声が聴こえる……
『……て……感…て……』
妙齢の……女性?の声だ……
「お~い」
「ヴィヴィアンさーん」
「ビビさん起きて~」
ん……聴こえる……たくさんの声……
「ビビさん起きろ~!レイズ~!」
暖かい魔法の光が私の体を包むと、眠気、いや気絶していた私の意識もはっきりと目覚め出す。
「う……う~ん……」
おかしいな、なんか不思議な夢を見ていたような気が……
「気が付いた?まだ行ける?」
私にレイズをかけてくれた白魔道士の彼女は私と同じ猫の耳と尾を生やしたミコッテ。
正確にはサンシーカー族の私とムーンキーパー族の彼女は少し生まれと育ちが違うのだが、まあ元を辿れば大した差ではない。
「あ、私やられてたのか、ごめ~ん」
意識が戻って今の自分が何をやっているのか思い出した。
ここはゴブリン族の長「ブレイフロクス」がその仲間と共に平和に暮らしていた「ブレイフロクスの野営地」。
惑星ハイデリンには大きく分けて3つの州が存在する。
ガレマール帝国が支配する北州イサルバード大陸。
同じくガレマール帝国の属州とされている東州オサード小大陸。
そして西州アルデナード小大陸は、3つの州を代表する6大都市国家のうち3つの都市が存在し、海の都リムサ・ロミンサ、砂の都ウルダハ、森の都グリダニアを拠点とする冒険者達には広く「エオルゼア」と呼ばれている。*1
ここ「ブレイフロクスの野営地」はその中でもリムサ・ロミンサを都市に構える東ラノシア地域の西部にあるレインキャッチャー樹林の奥地にある。
元々の経緯はこうだった。
ゴブリン族の女族長ブレイフロクス曰く、「仲間達と平和に暮らしていた野営地をモンスターに襲われてしまったので助けて欲しい」との事だった。
一度はその依頼を受けてゴブリン族を窮地から救ったのだが、未だにモンスターとゴブリンによる小競り合いが続いているらしく、何度か仲裁という名の用心棒を頼まれるようになった。
冒険者側には何のメリットもなさそうに思えるのだが、その小競り合いを仲裁した際の戦利品は自由に持って帰って構わないとブレイフロクスから約束を取り付けているので、冒険者にとっても旨みのある仕事となった。
私はと言えば丁度この「狩場」で手に入る装備を一式揃えたいと思っていた矢先で、これ幸いと何度かこの依頼を受けてはいるのだが、初対面の冒険者とは中々馬が合わない事も多く、満足にモンスターを倒せずに解散する事もしばしば……。
そんなある日、いつものように「ブレイフロクス野営地」での戦闘を終えて、所属するカンパニーで「ブレフロ行ってきた~」と帰還報告をすると返ってきた言葉が
「いってらっしゃい!」
何か勘違いされてるなと思って「あ、さっき行って帰ってきたところなんです」と説明し直すともう一度返ってきた言葉が
「じゃあ行かなくちゃ!」
という訳でこのスパルタお姉さんに引率されて何度目かの「ブレフロ戦」を繰り返しているところだった。
「よし!じゃあ元気出してもう一回行くよ~!」
「お~!」
普段なら何度か失敗した所で疲れて解散してしまう私だったが、今回は彼女のおかげで諦めずに挑戦を続ける事ができた。
無事に襲撃してきたモンスターを撃退し、彼らから奪い取ったインファントリー装備やアーチャーリングを手に入れる事ができた。
「アーチャーリング!私この依頼何度も受けてるけど初めて見たよ~」
「えー、そんな貴重なアイテムなの?私がもらってもいいのかな?」
「いいよいいよ!私はあくまでも魔法使いだし、吟遊詩人のビビさんにピッタリだよ!」
「本当?じゃあ、遠慮なく、いただいちゃいます!ありがとう~!!」
「おめでと~!!」
同じ仕事を受けた他の冒険者も賛同してくれたので、貴重なアイテムを貰い受ける事が出来た。
カンパニー仲間の彼女にも祝福され、一時の仕事仲間とも解散して仲間達が待つハウスへと改めて帰還した。
「カンパニー」─「別の私がいた世界」では「リンクシェル」とも呼ぶし、また別の世界では「ギルド」とも呼ぶらしい。
要は一時の仕事仲間ではなく、困難があれば助け合う為に冒険者同士が群れを成して徒党を組んだ組織と言えばいいだろうか。
私がこのカンパニーに誘われてから数ヶ月が経った。
始まりはいつだったか、一人どこかの森の奥を探索していた時、どこかで誰かがモンスターと交戦していたのでその手助けをしたのがきっかけだったと思う。
初めて出会った彼、いや彼女だったか……正直今はもう思い出せないのだが、とにかく「その人」に誘われた私は最初は徒党を組む事を渋った。
「別の世界の私」を思い出してしまったせいだ。
きっとこの世界でも私は周りに付いていけず、いつか手が届かない程の距離が開き、そしてまた一人怠惰な冒険者生活を送るのだろう。
そうなった時、きっと私はまだ見ぬ仲間達にとって「お荷物」になり、いつしか「邪魔者」になってしまうのでは……。
それならばいっそ、誰とも徒党を組まずに一人でいた方が周りの人の為、いや、自分の為にもそうした方がいいのではないだろうか。
そこまでハッキリと自分の悩みを打ち明けた訳ではなかったが、まあ大体そのような身の上話を打ち明け、せっかくのお誘いですが遠慮しますと断ろうとした時、彼(彼女)は「自分も同じです」と語った。
「自分も他の人に合わせられないタイプだし、このカンパニーもきちんと管理できるかわからないけど、それぞれ自分のペースでしか冒険できない人たちが集まれる場所になればいいんじゃないかと思ってて。だからヴィヴィアンさんにもきっと合ってると思うんです」
その話に共感し、再度誘ってくれた彼(彼女)の言葉に感謝をして晴れて私もこのカンパニーへと入団したのだ。
次に「別の世界の私」についてだが、結論だけ先に話すと、私Vivienne Aenslandはこのハイデリンとは異なる世界ヴァナ・ディールからやってきた転生者だ。
とは言ってもこれがまたこの世界では珍しくもなんともない。
私のようにヴァナ・ディールから転生してきた冒険者は数多くいるし、ヴァナ・ディール以外から転生してきた人もたくさんいる。
だから殊更「私は異世界人です」と説明する必要もなく、おそらく「前世」(便宜上前世と呼ぶが、別に「あっちの私」が死んだ訳ではない)で一緒に戦った仲間もいるかもしれないが、私はあえて「前世の私」を公表していない。
その理由については深く語るつもりもないが、簡単に説明するなら「その方が都合がいいから」である。
ヴァナ・ディールからこのハイデリンへ来るきっかけになった話をするなら、冒頭の不思議な声の話に遡る。
『……て……』
『……て……感…て……』
『……聞いて……感じて……考えて……』
妙齢の、おそらく女性と思われる声を聞いて目を開くと、そこは地面も空もなく、周囲に星が煌く宇宙空間のような場所だった。
私はその宇宙空間でふわふわと浮かびながら誰ともわからない声の主を探していた。
すると突然何もない空間に見えない地面が出現し、私は「見えない地面」に降り立った。
目の前に広がる宇宙、その先に輝く光、光から生まれる真っ黒い渦、闇の中から黒ずくめのローブを纏った一人の男が現れた。
男は怪しげな仮面で顔を隠していたが、何か邪悪な存在だと私は直感した。
次の瞬間、私の体全体を光が包み込み、力が溢れてきた。
『闇を打ち倒せ、光の戦士よ』
言葉ではなく、その意志が伝わってきた。
私はいつのまにか手にしていた弓を構え、闇から現れたローブの男を目掛けて矢を放った。
場面が変わり、気が付くと私は馬車に揺られていた。
待って、ちょっと待った、なんでなんで?
私はまだ頭の中に微かに残っていた「何かの意志」に向かって強く問いかけた。
『……どうしましたか』
反応があって良かった、このまま無視されて話を進められる所だった。
『私はそのつもりだったのですが』
いやいやいや、困ります。ていうかここはどこ?私はだれ?あなたは何様?
『ここは惑星ハイデリンにあるエオルゼア。あなたはこの世界で光の戦士となるべく冒険を始めるのです』
ハイデリン?エオルゼア?それってヴァナ・ディールのどの歴史と関係あるの?私まだ過去世界の戦争の歴史も見終わってないんですけど。てゆうか闇の王ともまだ戦ってなくて、これ以上新しい情報入れられるとパニックなんですけど。
『……あらあら……まあまあ……それはそれは……』
なんですかその呆れたような声は。あとさっきの質問ちゃんと答えて!あなたは何様?女神アルタナ?男神プロマシア?
『アルタナにプロマシア。ヴァナ・ディールの神々ですね。まず1つあなたが認識するべきは、ここはヴァナ・ディールの未来でも過去でもありません。惑星ハイデリンです』
『そして私は言うなればハイデリンの意志。今はそれだけ申しておきましょう』
『本来ならあなたのようにヴァナ・ディールで長い年月を過ごした冒険者は「調停者」によって振り分けられ、闇の戦士としてアシエンを打ち倒したりと様々な選択肢があったのですが……』
何かわからない単語がたくさん出てきましたね。そして何か言い淀んでいますね。どうぞ遠慮なく続けて下さい。
『あなたのようなレベルの低い未熟な冒険者は調停者に選ばれなかったので、改めて光の戦士として1からこのエオルゼアで鍛えなおそうという事になったのです』
……うーん、とっても失礼な事を遠慮なく言われた気がするけど何も言い返せない。
質問ですけど、ヴァナ・ディールの私はどうなってるの?リンクシェルの仲間もいるし、これからからくり士として頑張ろうって所だったんですけど。
『ご心配なく、異世界ヴァナ・ディールはあなたにとっては夢の世界のようなもの。今のあなたがこの世界で眠りにつけばあちらの世界へ帰ることはいつでも可能です』
なるほど、並行世界って訳ね。理解した。「大体わかった」わ。そして改めて言わせて。「ここがエオルゼアの世界か」。
『急に理解が早くて助かります。その他ヴァナ・ディールと違うエオルゼアの常識はこれからあなたの頭の中へ直接伝えていきますね』
ふむふむ、ヒュームはヒューラン、ミスラはミコッテ、エルヴァーンはエレゼン、タルタルはララフェル、ガルカはルガディンって呼ばれてるのね。
ああ、それから引継ぎについてはどうなってるの?
『引継ぎ?』
そう、引継ぎ。だって私ヴァナ・ディールでは結構長い時間冒険してきたんだよ?
色んなジョブ転々としてきたし、装備とかお金とか、まあそんな威張るほど持ってないけど、それなりに貯めてるつもりだし、こっちの世界でもその分配慮してくれていいんじゃない?
『……それに関する抗議デモなら随分昔にありましたが、結論から言うと引継ぎはありませんね』
え~、ないの?ていうか抗議デモとかあったの?うける。
『先ほどもお伝えしましたがそもそもヴァナ・ディールでのあなたという存在は消えていませんから、このエオルゼアに引き継がなくても一切問題ないはずです。あちらの世界に用事があればいつでも夢を通じて戻って構いません』
ふ~ん、その辺結構融通きくんだ。いいわ、オッケー、理解した。
『では物語を進めてよろしいですね?ちなみに今のあなたの姿は潜在的にあなた自身が望んだ姿が反映されているはずです』
そう言われて初めて気付いたが、ヴァナ・ディールではヒュームだったはずの私の体からは尻尾が生えて、耳の位置も頭の上にあって、この姿は……ミスラ─この世界ではミコッテだったか─に変貌していた。
「なあ、お前さん、大丈夫かい?」
今度は頭の中ではなく、はっきりと目の前から声がした。
馬車の向かいの席に座っていた、浅黒い肌と金色の立派な髭を蓄えたヒューム─こっちではヒューランか─の男性だった。
彼の目には私がうなされていたように見えたらしい。「エーテル酔いか?」と心配された。
彼の話によるとこの馬車*2は森の都グリダニアに向かっているらしい。
大体の事はさっき『ハイデリン』とやらに聞いたので話を合わせておいた。
「俺はブレモンダ、こうして会ったのも何かの縁だ。お前さんの名前も教えてもらえないか?」
名前か、そうだな、容姿も種族も変わったんだから、名前も変えてみるか。
あの名前を名乗らなければ、こっちの世界では何も後ろ指さされる事なく生活できるだろうし。
「私の名前はヴィヴィアン。……ヴィヴィアン=アーンスランドよ」
ファミリーネームも咄嗟に考えた。家族なんていないから何でも良かったのだが、なんだか記憶の隅にひっかかる名前だったのだ。
それからの冒険者としての生活は慌しかった。
グリダニアでの生活に慣れたかと思ったら飛空挺に乗って三国を巡り、「暁の血盟」と名乗る組織に勧誘されて「蛮神」となった召喚獣を鎮める為にイフリート、タイタン、セイレーンを討伐し、その道中に現在も所属しているカンパニーに誘われたり、気が付けば数ヶ月で私は弓使いからクラスチェンジして一端の吟遊詩人を名乗れる程には成長していた。
この分なら私は「あっちの私」よりずっと強くなれる、誰かに後ろ指さされずに堂々と冒険者を名乗れる、そう思っていた矢先、ふとした時、ふとしたきっかけ、小さな綻びが、自分自身を蝕む。
倉庫に、物が、溢れすぎている。
リテイナー*3に管理を任せている道具や武具と、自分の鞄にぐちゃぐちゃに詰め込まれた道具の数々を見た時、何かが折れる音がした。
「う~ん、もう、めんどくさ~い!」
こういう時は気分を変えよう、世界を変えよう、ここじゃないあちらの世界へ。
そういつものノリでベッドへダイブした。
しかしその日はいつもと何かが違った。
時計の音、洗い場に流れる水の音、窓の外から聞こえる草木のそよぐ音、全てがいつも通りのはずだった。
しかしその日はいつもと何かが違った。
アリアンロッドRPG 2E「穿て 異界の門」外伝
異世界人ヴィヴィアンの旅路
序章2──エピソード オブ エオルゼア──
つづく▼